空条の奇論
つい最近も見かけたのですが、「日経平均も1989年の高値から30年積み立て続ければプ
ラスになるんだが?」みたいな話を事も無げに主張にする人が一定数存在します。
余程堅い意志の持ち主なのか、覚え立ての積立投資の知識だけで語っているのか分かり
ませんが、34年後に高値更新すると分かっていれば、そういうことも気安く言えるでし
ょうが、10年20年と安値を更新し続ける状況下で買い続けることがどういうことなのか
本気で考えてもらうために積立シミュレートしてみます。
まず該当時期の日経平均のチャートを示します。
2009年の底値まで約20年間行きつ戻りつ人の心を弄ぶように下げ続けます。
常識人ならこれを見ただけで無理だと即断する話なのですが、自身のリスク許容度とド
ルコスト平均法の力を信じる人や最終的に損益がプラスになれば勝ちぐらいにしか考え
ていない人は、まだ納得しないでしょう。
以下に示すのが、1989年12月から毎週10,000円ずつ積み立てた資産推移のチャートです。
開始してから10年間ほぼ含み損の状態です。
途中ちらほらプラ転する時期がありますが、利確撤退したい誘惑に勝てるでしょうか。
そこを乗り切ったら、1996年を過ぎた辺りからまた含み損が膨らみ始めます。
1997年に含み損が100万を超えますが、そこそこ辛抱強い人ならまだ乗り切るかもしれません。
その後、含み損は最大160万ほどまで膨らみます。
2000年に入ってやっとプラ転し、また利確撤退の誘惑に襲われます。
ここまで丸10年、楽になりたい、でもここで辞めたら今までの苦労が水泡に帰す、サンクコストの
呪縛に酷く苛まれるでしょう。
そうこうしている内に4カ月足らずでまたマイ転します。
その後、同年7月には含み損が100万に達し、翌2001年2月には200万、同年9月には300万近くにまで膨れ上がります。
プラ転時にさっさと利確しなかったことを激しく後悔するのではないでしょうか。
しかし、苦難はまだ続きます。
その後数年、含み損200~300万辺りをウロウロ、2005年暮れにやっとプラ転、2006年
4月にはやっと含み益が100万円を超えます。
さあ、どうしますか?
続けますか?
その後はご存じリーマンショックです。
2007年2月に160万まで増えた含み益は、同年の暮れにはすっかり消失し翌年10月には
含み損が500万近くまで爆増します。
そして2012年暮れまで含み損300万円を下回ることはありません。
あなたならどうしますか?
持ち切れますか?
次にプラ転するのは2013年9月、散々しんどい思いをしてまだ続けたいと思えますか?
確かにこの後継続すれば同年12月には含み益が200万に達しますが、翌2014年には19万
まで減少するなどマイ転しないまでもボラタイルな資産変動が続きます。
同年中に含み益300万、2015年には一気に650万と資産ブースト期に入りますが、ここ
まで持ち続けることが出来る人はどれほどいるでしょうか。
冒頭のようなことを気安く言う人は勿論出来るんですよね?
ついでに言うと、翌2016年2月には含み益が100万以下まで減少します。
波乱万丈ですね。
ダメ押しで解説すると、2018年9月には念願の含み益1000万の大台に乗せますが、同年
12月には500万円台まで減少します。
この間の通算の成績を数値として示すと以下のようになります。
幾何平均を出すと年1%程度の利回りしかありません。
配当を入れればもう少しマシになるでしょうが、当時の銀行預金の金利をご存じですか?
https://www.jasfp.jp/img/13-itou.pdf
無リスク資産の金利がこれだけあるのに、アホみたいに含み損抱えながら積立投資なん
てしてて正気でいられますか?
もう一度訊くけど、冒頭のようなことを気安く言う人は勿論出来るんですよね?
ついでにもっと怖い話をしよう
開始時期を1973年からにしたものが以下に示したチャートです。
一時期3800万にまで達した含み益が、ITバブルの崩壊、リーマンショックで水泡に帰すわけです。
30年続けた投資がこんなことになったらどう思いますか?
今一度訊く、冒頭のようなことを気安く言う人は勿論出来るんですよね?
積立投資なら楽勝なんですよね?
何?日本株じゃなければ大丈夫?
じゃあ、次の試算をご覧ください。
🤔 リーマンショックでも4年かかれば戻るので時間が解決してくれる。
🤔 何年も積み立てた後だと、暴落来た時でさえ含み益バリアを突破できない。
暴落なんてリスク低めのインデックスならせいぜい50%だし。
NISA損切りシリーズのネタで拾ったコメントですが、まあ、どこにでもいるニワカ投資家の世界観です。
リーマンショックのようなイベントの本当の怖さは、上で示した通り長期で築いた資産が吹っ飛ぶことです。
高値奪還までの年数しか見ていないようだと痛い目を見るでしょう。
試しにS&P500の1983年から2009年までの株価の平均を取ってみました。
「Average Line」という黄色の線がそれですが、1983年から25年以上淡々と定額で積立
ていった場合でも、リーマンショックで元本割れすることになります。
「ドルコスト平均法は安い時に沢山買えるから違う」と言うでしょうが、株高の時は
みんな欲が出て、高いところでボーナス一括買いするでしょう、今みたいに。
以前似た様な試算をしたことがあるのですが、参考までに。
1990年1月から毎週定額積立をする想定ですが、2009年2月に元本割れします。
含み益バリアを心の拠り所にしても、相場の変動は無慈悲です。
1955-1974
1955年からの20年間、チャートは右肩上がりでいい感じに見えますが、1970年代は有
名なスタグフレーション時代、政策金利も迷走し株式市場も乱高下。
同様に定額積立シミュレーションしてみると
1974年末に元本割れ。
1973年から1974年末までの下落率がほぼ50%です。
「せいぜい50%」のドローダウンで20年の積立が水泡に帰すこともあるわけです。
長期のチャートを見ると、価格の変動のサイクルボトムに落ち込む時に、上記のような
悲劇が訪れるのが見て取れます。
大体25~30年周期で再現すると仮定すると、2009年から25年後の2034年末で 3350
30年後の2039年末で 4600 です。
となると、2015~2020年辺りから積立を始めた人が、10~15年後に含み益を根こそぎ
持って行かれるイベントが発生するかも知れないわけです。
昨今よく見かける「短期の値動きなんてどうでもいい」と嘯く中堅投資家も、10年後ぐ
らいに含み益を根こそぎブッ飛ばす可能性があるわけです。
「長期的に右肩上がり」に見えるチャートも、このような落とし穴が潜んでいるのです。