NISA損切りと金融リテラシー

 

失敗と向き合うのは良いこと

ちょっと前からちらほら聞かれる「新NISAを早々に損切りした人たち」の話ですが、実

際そういう人がどれほどいるかはさておき、今は金融リテラシーの高い人たち*1の物笑い

の種として消費されているだけで済んでいますが、今後本格的に相場が軟調になれば他

人事ではなくなる人も少なからず発生すると思われます。

 

そうなった時は今より更に「損切り民」に対する風当たりが厳しくなることが予見され

ます(苦痛から逃れた人たちを「リテラシー不足」「腰抜け」とバッシングすること

は、不安や恐怖、無力感に堪えている自分たちの気慰みになるから)。

 

私は、NISA損切りについては「別にいいんじゃね」と思います。

勿論失敗しないに越したことはないですが、若い(傷が浅くて済む)うちに失敗をする

ことは、上達のための良い経験値になるのではないでしょうか。

新NISAは売却すれば枠が復活するわけだし、きちんと失敗を失敗として受け止められて

いるなら、付け焼刃の知識で年中買い場だバーゲンセールだのと囃し立てている人たち

より見込みがあるかも知れません。

 

退場してそれっきりだと残念ですが、そもそも投資に向いてない人間まで唆してリスク

を取らせようとする、あるいは「投資をしないと将来ヤバい」みたいに煽り立てる風潮

がおかしいという認識は持っておいて損はないでしょう。

大概、大衆が騒ぎ立てる局面は相場の天井が近いサインでもあります。

 

相場の天井で起きやすい事

ボブ・ファレル【マーケットの10のルール】

 

そもそも金融リテラシーとは何なのか

政府広告によると金融リテラシーとは「経済的に自立し、より良い生活を送るために必

要なお金に関する知識や判断力」だそうで、最低限身に付けるべき金融リテラシーとし

金融庁の金融経済教育研究会が策定した4分野15項目が掲げられています。

 

ざっと見ると大学入学時のガイダンスにありそうな、社会生活をする上での基本のよう

なものが並んでいますが、その中にしれっと難度の高いものが一つ紛れているのにお気

付きかしら。

(6)金融と経済の基礎知識(単利・複利などの金利、インフレ、デフレ

為替、リスク・リターンなど)や金融経済情勢に応じた金融商品の利用選択

について理解すること。

これは所謂グローバル・マクロというやつですが、そこまで本格的ではないにせよ、

身に付けるべき金融リテラシーでこれを要求されるのは、なかなかハードルが高い

でしょう。

少なくともオルカンガチホで気絶とか言ってる人の大半は金融庁が期待する金融リテラ

シーを体得していないということになりそうです。

 

金融庁と言えばNISAの元締め、そこが掲げる最低限身に付けるべき金融リテラシーを有

していない人が、もしNISAで失敗しても「あなたは最低限の要件を満たさないまま運用

を始めてしまったのだから」と素気無い扱いをされたら言葉に詰まるでしょう。

 

実際に金融庁がそんなメッセージを発することはないでしょうが、こういう動画 のコ

メント欄には損切りに対する揶揄が溢れており、同情や共感を寄せる声は皆無です。

「10年後今よりも損失抱えていたら文句言え」なんてコメントはフラグにすら見えます。

 

日経平均の話題だから関係ないなどと思っているとしたら大きな勘違いで、オルカンとて

平均回帰すれば20%ぐらい余裕で下がります。

 

 

これを見て「長期なら安心」と思ったら大間違い。

 

 

日本で販売されている投資信託*2は円建なので半値近くになるリスクがあります。

更に10年後でも、平均回帰したら今の価格より安いわけですが、「年初一括が正解」だ

の、高々数%下げた程度で「むしろ今が買い場」などと思っている人は、こういった俯

瞰的な視点も持っておいた方が良いでしょう。

 

「テクニカルはオカルト」などと利いた風なことを言ってチャートすら見ない、見ても

「長期的に右肩上がり」以上の情報を読み取れない人は、チャートは価格変遷の履歴で

あるということを理解出来ているでしょうか。

 

長期平均から大きく乖離している時期とその背景について、上記のグローバル・マクロ

視点からの考察ぐらいは出来ないと、他人の金融リテラシーをどうこう言えた立場では

ないというのがNISAの元締めが提示する文章から読み取れるメッセージですのよ。

 

怪しげな投資リテラシー

金融リテラシーと投資リテラシーは似て非なるもの*3で、投資に役立つ情報はプロでも分

からないといったような蒙昧主義的な言い草でお茶を濁されがちです。

巷で見聞きする投資に関するリテラシーも怪しげで頼りないものが多く、「複利」につ

いては期待しているほど投資家の味方ではないですし、「含み益バリア」などといった

気休めにもならない(「自分の買値を中心にした視点」は参照点依存性という行動経済

学上よく知られる)バイアスに基づいた投資助言が流布されていたりしますが、寧ろ足

枷となる独りよがりな判断法です。

こういうことをFPを名乗る人間までが発信していたりして呆れるのですが、単に不勉強

なのか、分かった上で初心者を唆そうとしているのか、後者なら悪質です。

 

またドルコスト平均法についても、流石に最近は山崎元氏の布教が行き届いてきたのか

ドルコスト平均法が有利だと主張する人はかなり減ったように見えますが、逆に「一括

投資の方が理論上有利」という意見を見掛けるようになりました。

しかし山崎氏自身も、一括投資の方が有利とは言っていません

どのような買い方をしたとしても、同じ対象を買う限り、それぞれの時点の

リスク・リターンについて有利不利はない

期間全体が下げ相場であれば、一括投資の不利は当然だし、運用期間中の平均投資額が

少なくなるドルコスト平均法のリスクが小さいのは当たり前だ。

逆に、期間全体が上げ相場なら、ドルコスト平均法は著しく不利になる。

 

加えて、「長期投資なら絶対大丈夫だと思うのは単純すぎ」とも。

取引コストを考えなければ、運用期間の長期化は、おおむね有利でも不利でもない。

運用会社の中には、長期投資なら絶対儲かるといった印象を顧客に与えて商品を

売りたがる一種の宗教のようなマーケティングを行う会社もあるが

「長期なら、リスクが縮小して、絶対儲かる」とは言えないのだから

もう少し、賢そうな売り方をするべきだろう。

 

時価評価を嫌う個人投資家について。

「株価(基準価額)の上下に一喜一憂したくない」とか、「売るまでは、損が確定した

わけではない」とか、思い思いの理由を並べることはあるのだが、(中略) 自分の資産の

価値は生活を考える上で重要な情報のはずだし、時価の変動を見ていてこそ、「リスク」の

性質や大きさを正しく知ることができる。

投資でも人生でも、現実認識をごまかすのは大失敗のもとだ。

 

etaoinshrdlu.hatenablog.com

 

 

*1:複利」「握力」「気絶」等が口癖の人

*2:代表格がオルカン

*3:投資商品に関する知識と投資に関する知識も別物