山崎元氏の提唱する「平均投資」について

 

 

数か月前に山崎元氏の記事に言及しましたが、それに関するアンサーのような記事が

いくつか掲載されていたので、ざっくり触れてみたいと思います。

 

まず一つ目は

media.rakuten-sec.net

より

 

「平均投資有利の原則」と題して、近年投資対象を全世界株式インデックスファンド

一本に絞った理由について

 


内外の株式の連動性の高まりによって他の組み合わせとの差が縮小していることの他に

現在の世界的な株式運用の競争の場が既にグローバル化しており、グローバル株式の中での

競争が益々強化されそうな情勢を考慮した結果

 

としています。

株式以外のアセットは、すっぱりオミットする意向のようです。

とにかく間口を広くとるために手法を簡素化し、物理的・金銭的コストの削減を徹底

したいという意図が強く表れている印象を受けます。

山崎氏は「いや、飽くまで効率を追求した結果ですよ」と言いそうですが。

 

個人的には後段にある、下掲の記述を添える辺りに、頭を使わない怠惰な投資ではない

という矜持を垣間見ました。

目的は「平均投資」を実行することにあるので、何らかの商業的なインデックスが必要な訳でも

ないしインデックス化されていることにありがたみがある訳でもない。むしろ、インデックスの

歪みや銘柄・ウェイト調整による「平均投資」からの乖離、そしてインデックスの使用料などに

注意し解決すべき問題があることを投資家は知っておくべきだ。

 

知ったとして具体的にどうすればいいんだ、という感じではありますが。

 

また「成功報酬のオプション性」というチャプターの最後で

投資家の側でも、ブラックボックスを放置して、漫然と株式を保有してリターンを期待している

だけでは不必要な損をするかも知れない時代になっていることへの警戒心が必要だ。

いつの時代も、「知らないこと」、「工夫が足りないこと」、さらに「リスクから逃げようと

すること」は損のもとになるのだ。

一般論として、投資でも、ビジネスでも、リスクを避けて守りに入るよりも、適度な(自分に

とって無理でない)リスクを取りつつ、工夫を重ねる心がけが大切だ。

 

と説きます。

これまた具体性のないご託宣ではありますが、不特定多数(≒平均的投資家)に向けて

平均的投資家を出し抜く方法を伝授するということ自体、構造的に矛盾を孕んでしまう

*1ので、仕方ないのでしょう。

しかし、「漫然と株式を保有してリターンを期待しているだけでは不必要な損をする

かも知れない時代になっている」というのは、個別株に限った話ではないという認識

があるので、太字下線を用いて強調しているのであろうという点は、インデックス

投資家としても等閑にすべきではないと思います。

 

 

次に

media.rakuten-sec.net

より

 

投資一般について

株式投資では、例えば無リスク金利プラス年率5〜6%と専門家が期待するような

「リスク・プレミアム」が存在する。株式投資は、例えば1年後の期待回収率が

105%とか106%のように、100%を超えるギャンブルなのだと考えてもいい。

「リスク・プレミアムは絶対に存在するのですか?」などという野暮な質問は止めて欲しい。

この点に対する「賭け」の性質は、全ての投資家にとって無くせるものではない。

原理的に、「絶対に」が言えるならリスク・プレミアムは存在しなくなってしまう。

 

と、長期投資とてギャンブルであることには変わりないと説き

 

「長期ならほぼ大丈夫でしょう?」と食い下がる人も嫌いだ。

 

と、浅薄な長期投資への認識を一蹴します。

また、別記事内の発言ですが

最後の最後には、損しても、お金で済むことだからいいじゃないかという、割り切りを持て

泣けるとかすごく嫌な気分であるとか、大変だといったリスクをとって投資しているからこそ

株式は高いリターンが得られるように価格形成されているわけです。

それが嫌なら投資をやめたほうがいい。

 

と、投資舐めんなよと釘を刺します。

 

 ※しかし2021年10月のバブル相場絶頂期の記事とは言え

 つみたてNISAが生み出したハッピーで気楽な投資の新潮流に乗ろう!

 はお気楽が過ぎますね。

 ド天井で掴んでその後の下落を味わっている投資家からしたら(#^ω^)ピキピキものでしょう。

 円建の米国株式は大した痛みを味わっていないようですが本当の地獄はこれからだと思います。

 

その一方で

インデックス投資家が、これらの点を誤解すると、せっかくスマートで知的に見えていた

イメージが損なわれるので残念だ。

ゲームの構造を理解して全世界株式のインデックス・ファンドを保有している投資家は、自らが

知的でスマートであることに、少し誇りを持っていい。静かに胸を張って欲しい。

 

・アクティブ運用者=知恵の薄いギャンブラー

・平均投資家=知的でスマート

 

というブランディングに勤しんでいるようです。

運用成績に関しては市場の都合全面依存の為、具体的な効能を謳えない健康食品の宣伝

めいた物言いになってしまうのは致し方ありません。

また、比較対象がプロのアクティブ運用者というのも、「プロ=常人離れ」という

素人の先入観を利用したマーケティングのようで幻滅ポイントではあります。

そもそも、時として「脳死」「フリーライダー」などと不名誉な誹りを受ける

インデックス投資家に「スマートで知的に見えていたイメージ」が存在したのかも

疑問です。

 

せっかく手にした幸運を手放さないように気をつけて欲しい

 

という記述についても、インデックス投資家はローコストな手法を手にしただけで

それ自体が幸運(=満足のいく運用益)を保証するわけではないのも、叙述トリック

めいていて、やや優良誤認のように感じられます。

 

しかし、前回の記事では「大いに自信を持って、新NISAを合理的に活用するといい」

と言っていたのが「少し誇りを持って」「静かに胸を張って」と控えめな表現に変わって

いるのが微笑ましいです。

それに、知的でスマートに見られたくて投資しているわけではないので、どうでもいい

自意識の話のように思われます。

 

続いて

media.rakuten-sec.net

より面白い問答を2、3ピックアップします。

 

まず

Q1.つみたて投資枠と成長投資枠の投資対象商品の分散について教えて下さい

に対して

 

全世界株式のインデックスファンド1本でいいと思います。

どうして、商品の数を増やしたいと思うのでしょうか?

実は筆者に心当たりがあります。それは、ズバリ言って「ショッピングの楽しみ」

なのでしょう。

 

資産を分散する意図は、価格下落時のヘッジの為だと思います。

「オーバーコンフィデンス」「イリュージョン・オブ・コントロール」はその通り

だと思いますが、そういった投資初心者の不安に一切寄り添わず、丸尾君の如く

「ショッピングの楽しみ」と一蹴するのは少々煽りが過ぎるのではないでしょうか。

 

また

Q5.高配当株式への投資は新NISAでの資産形成に有効でしょうか。

Q8.新NISAでのお勧めポートフォリオを、さまざまな対象者別に教えて下さい。

山崎さんが勧める「全世界株式のインデックスファンド1本」以外の商品・組み合わせ

で答えて下さい。

に対する回答において

 

投資にあって配当や分配金のようなインカムゲインにこだわる意思決定を早く卒業することを

お勧めしたいと思います。

すっきり割り切って、さっぱりしましょう!

質問者は、私の話の肝心の部分を理解していないか、最初の質問の際に説明した

「ショッピング好き」の投資家なのか、或いは私を試しているかのいずれかなのでしょう。

どうか、シンプルで合理的な運用をスッキリ理解することの気持ちよさに目覚めて下さい。

 

この記事に限りませんが「スッキリ」という表現を重ねて用いています。

珍しくエクスクラメーションマークまで付けていますが、スッキリというより

「すっぱり(諦めろ)」というニュアンスを感じます。

少なくとも山崎氏はスッキリしたい心境なのでしょう。

 

所感

ローコストを追求するのは結構ですが、それだけでは戦略の全てにはなりえないし

特に一括投資を推奨する山崎氏のような立場で、買付時のバリュエーションを無視

するというのは、平均投資の理念に悖る無精だと思います。それを「マーケットの

有利なタイミングがいつなのかを判断することはできない」と言い張るのは、知的怠慢

の印象を免れないのではないでしょうか。

そういった手法に「知的でスマート」という印象を付与しようと試みるのは少々苦しい

ように感じます。

 

私見を述べると、繰り返しになりますが市場平均にBetして平均的リターンを得るため

には、「市場平均の平均」を見定める水準判定が肝要ということになります。

その為の手掛かりは長期平均線であったり、月足100MAであります。

 

 

 

 

*1:みんなが同じポジションをとったら、それ自体が平均になってしまう