過去、インデックス投資はさながら宗教であるかのようなトピックが度々持ち上がり
その都度、他愛のない物議を醸してきたわけですが、新NISA開始に際して、今や
「オルカン一本・ほったらかし」の人としての認知度がほぼ100%となった山崎元氏の
過去の発言を引用しながら、長期投資家として身に付けておいた方が良いと思う知識
やマインドセットについてまとめてみたいと思います。
*以下山崎氏の発言は青太文字
投資家マインド編
「長期投資なら、着実に儲かる」とか「長期投資はリスクを縮小するとか」「資本主義
の長期的発展に賭けようとか」、あるいは、単に「長期投資は素晴らし」と叫ぶような
「長期投資」に特別の効果や役割を期待するような、いわば「宗教としての長期投資」
は、卒業する方がいいのではないかと考えている。
界隈をざわつかせた話題について、オルカンほったらかしのグルが何年も前にこのよう
な発言をしています。
「投資啓蒙の初期にあって一定の役割を果たしたかも知れないが」とありますが
(記事は2016年初出のものですが)投資手法はある程度浸透したようですが、マイン
ドについてはまだまだであるようです。
「長期投資」が、妙に不自由で無理な投資を意味したり、逆に、過剰に素晴らしいもの
のように言われたりで、「素直に」「正しく」受け止められていない。
人は往々にしてバイアスに囚われがちですが、日々不確実性と対峙し、増してやそれが
数字で瞭然と現れてしまう資産運用においては、その傾向はより顕著となります。
日々の値動きが気になって仕方がない投資家が、「長期だから」を言い訳に超然と現実
離れ(逃避)を試みる様子はそこかしこで見られますが、そういった姿勢に対しても
「10年先に賭けていると思い込むことは、心理的な方便になることがあるし、結果的に
それがいい可能性もある」と、譲歩の姿勢を示しつつも、飽くまで「お勧めはしない」
「積極的なメリットはない」「現実を直視すべき」と突き放します。*1
「株価(基準価額)の上下に一喜一憂したくない」とか、「売るまでは、損が確定した
わけではない」とか、思い思いの理由を並べることはあるのだが、「しかし、現実は、
その都度認識する方がいいのではないですか。それで、不都合はないでしょう」と申し
上げておきたい。
初心者向けの投資の本には、「投資した株の株価なんて忘れてしまえ」といったアドバ
イスが書かれていることがあるし、確定拠出年金の投資教育のようなケースでも、「ポ
ートフォリオの時価のチェックを頻繁に行うのは考え物だ」と教えるケースがあるよう
なのだが、筆者はどちらにも賛成しない。
投資でも人生でも、現実認識をごまかすのは大失敗のもとだ。
*類似記事 :「負けました」と言える?子供将棋教室での学びと投資の心得 |
基礎知識編
以下の記事に含まれるような知識は必携でしょう。
上掲の記事内より、個人的に気になる部分を抜粋しながら自説を述べます。
長期投資を過剰に賞賛する内容のものもあるのだが、その内容が正しくないために
長期投資をかえって胡散臭い物として印象づけてしまうような残念な話が時々ある。
取引コストを考えなければ、運用期間の長期化は、おおむね有利でも不利でもない。
運用会社の中には、長期投資なら絶対儲かるといった印象を顧客に与えて商品を売りた
がる一種の宗教のようなマーケティングを行う会社もあるが、「長期なら、リスクが縮
小して絶対儲かる」とは言えないのだから、もう少し、賢そうな売り方をするべきだろ
う。
しばしば眉唾な謳い文句とともに長期(インデックス)投資を称揚するものを目にしま
すが、例えば金融緩和の恩恵で優れたパフォーマンスを誇った直近10~15年のチャート
を用いて魅力を宣伝したり、その期間のリターンを将来の収益期待に当て嵌めて皮算用
しているようなものは、過剰に良いもののように見せ掛けようとする典型例です。
それと目につくのは「最強」だの「正解」だのと強い表現で宣伝されているものです。
「最適解」程度ならまだ分かりますが、そもそも正解が分からないからパッシブな
ポートフォリオを構えて平均的位置に就くことを志向しているはずなのに、なぜか分を
超えて「最強」を僭称*したがる人がたびたび現れます。
近年の株高から得たオーバーコンフィデンスに因るものなのか、群集心理に因るもの
なのか、不安の裏返しなのか、はたまた腰の据わらないフォロワーを引き寄せる為の
人気取りパフォーマンスなのか、いずれにせよ苦境に直面した時の為に、投資家各人が
地に足の着いた自律的なマインドを養っておいた方が良いでしょう。
*「アクティブファンドの9割が長期的にはインデックスに勝てない」という巷説に基づく壮言だと
思いますが(50年で勝ってるファンドは2%あるそうです)、それらのファンドや、特にその中のスーパー
プレイヤーの存在を知らないのなら単純に無知ですし、どうせ自分の手の届かない位置にいるからといって
見て見ないふりをしつつ最強を自称するのもなんだか情けない話です。
また、似た話ではありますが、「全力」「バーゲンセール」「爆益」だの、無闇に力
み込んだ表現を多用する人は避けた方が良いでしょう。そういう手合に感化されて、気
付いたら自身のリスク許容度を超えた運用をしてしまっていたり、慎重になるべき場面
で過度にリスク選好的になってしまい、思わぬ痛手を負う*恐れがあります。
*2022年の下落相場で、上昇トレンドが終わっていることも分からずに、「押し目だ」と買い煽られては
やられていたような人達のことです。
同様に「暴落」「バブル」「崩壊」といったネガティブワードも無価値です。
厳密な算出は無理にしても、定量的な裏付・水準感のない表現は投資において凡そ役に
立ちません。
そもそも、投資家にとってのイベントリスクは発生確率×インパクトの大きさで推し測
るものであり、複数の視点とそれぞれのシナリオについての対応を用意するのが望まし
いのですが「当たる/当たらない」のような二値的な思考に陥りがちな人や、一つのス
トーリーにしがみついてしまう人は、耳障りの良いことばかり吹聴したり断定的な表現
を用いる情報発信者に引き寄せられてしまい、多くの場合その発信者の養分にしかなり
ません。
長期投資の有効性は、「論理的な期待」に過ぎない。冷たい言い方で恐縮だが、有利だ
と思ってそれに賭けてもいいと思う人が賭けたらいいだけのことなのだ。
投資家が論理的に期待すべきなのは、投資対象の成長率ではなく、資産価格形成に含ま
れるリスクプレミアムなのである。
「信じる」、より正しくは「期待する」とすれば、経済成長・利益成長ではなくマーケ
ット(の価格形成)のほうだ。
(株式投資に高いリターンが期待できるのは)株式が世の中のためになっているからと
か経済が拡大するからとか、企業が頑張るからといった、ある意味ではロマンチックな
理由からではなく、将来不確実な価値を、現在時点で評価する際の経済主体の考え方が
反映したものです。
「長期投資はギャンブル*ではない」と言い張る人もよく見掛けますが、記事内でも
言及されている通り、丁半博打ほどバイナリーではないにしても「投資はあくまでもそ
*「『ギャンブル』の定義にも依る」と言いたいところですが、20年という比較的長期で見ても
リターンに大きな格差 があり、「元本割れしなければ勝ち」と言って退けられるほど気楽な話では
ありません。
成長期待よりも、現在価値が正しく値付けされているかどうかの方が大事ということを
等閑にして、いつも遠い目をしているロマンチックな人もよく見掛けます。
*類似記事 :「経済成長」に賭けるより「マーケット」を信じよう
「バブルは弾けて初めてわかる」とか「『靴磨きの少年』なんて揶揄はいつの時代もあ
る」などと居直り、将来の成長を漫然と期待したり、目先の株高に気を良くする前に
過大な期待が織り込まれていないか点検する方が、投資家らしい心掛けだと思います。
山崎氏は大概、「期待リターンはどうやって決まっているのですか」という問いに対す
る応答のように
株式の期待リターンを直接的に推定する決定的な方法はありません。
年金基金のような責任ある立場の投資家たちも、率直に言って
(1)あれこれ考えたふりをしつつ
(2)周り(他の投資家)を見ながら
(3)鉛筆を舐めるようにして
(4)業界内で常識的なリターンを期待リターンとする
というのが実態です。
と、のらりくらりと山崎節で「有利なタイミングなんてプロにも分からんよ」とばかり
にシニカルな態度で突き放しますが、「益利回り(PER[株価収益率]の逆数)」を例に
挙げ、「期待リターンを概算するようなことは何重にも仮定を置いた株式リターン推
定法として考えることは一応出来ます。」と保険を掛けながらも控えめに提案をされてい
るので、この概念について扱った記事を紹介したいと思います。
筆者は、強気に立つにせよ、弱気に立つにせよ、株価を材料だけで判断するのではな
く、何らかの判断基準に基づく「水準」として判断する必要があると考えている。
堂々と「科学」と言えるほどのものではないが、株価にも多少の理屈や相場はある。
あるべき株価を考える上では、特殊な状況だけを前提とするのではなく、長期的に維
持可能なノーマルな状態を想定しなければならない。
山崎式「株価の高低判断法」
益利回り(EPS/P)はPERの逆数なので、簡単に求めることができる。PERが20倍なら
5%だし25倍なら4%といった具合だ。
ここで、簡略化のために割り切った「仮定」だが、「投資家がイメージする企業の長期
的な利益成長率が、当面予想されているGDP成長率と同じだ」と考えてみる。この場合
のGDP成長率は、実質成長率ではなく、名目成長率だ。
現状で、2013年度の政府の名目GDPの成長率見通しは2.7%(実質2.5%+物価上昇率
0.2%)だ。この数値を採用すると、益利回りが5%なので、割引率が意味する株式の
投資収益率は7.7%となる。これは、直近の長期債(10年国債)利回りである0.74%を
約7%上回る。
リスクのある資産の期待投資収益率と安全資産*2の期待収益率の差は、株式のリスクを取
ることに対する報酬を意味するので、「リスク・プレミアム」と呼ばれる。
大まかな判断基準は、先のような方法で計算したリスク・プレミアムが
(1) 7%以上あれば株価は安い
(2) 6%程度なら普通
(3) 5%以下なら株価は高い
というくらいのイメージだ。
所謂、Equity Risk Premium の応用のようです。
私も、バリュエーションを語る時に金利水準を無視して適当に5年平均とか10年平均の
PERを持ち出す人なんかは、それっぽいことを言っているようで今の株価を正当化したい
だけに見えるので聞き流します。
たとえば、米国では、伝統的にS&P500の株価収益率が20倍を超えると
市場が過熱していて、株価が高すぎるのではないかという声が出る。
株式のリスク・プレミアムがどのくらいの大きさであるかについては、内外に長年の議
論があるが、確たる答えは無い。
学者や実務家の多くがイメージし、運用計画などに用いる数値は、5%~6%くらいであ
ることが多く、株価が上がり続けている時には、これがもっと小さくてもいいのではな
いかという議論がしばしば登場する(たとえば、金融危機の前のサブ・プライム問題が
起こる前の米国がそうだった)。
しかし、経験的には、そうした議論が登場してしばらくすると、株価が大きく下落する
場合が多い。
ということなので、S&P500のバリュエーションをざっくり見てみましょう。
足元のEPSは220~225辺りなので、今の株価約4600を225で割ってPERは20.44
参考:https://www.yardeni.com/pub/yriearningsforecast.pdf
参照:TMUBMUSD10Y | U.S. 10 Year Treasury Note Overview | MarketWatch
GDPNow - Federal Reserve Bank of Atlanta
https://www.bea.gov/news/2023/personal-income-and-outlays-october-2023
益利回り≒4.89%(PER≒20.44)
10年債利回り≒4.2%
GDP=1.2%
PCEコア=3.5%
投資収益率≒4.89+1.2+3.5=9.59
リスク・プレミアム≒9.59-4.2≒5.39
あとはこれが持続可能かどうか。2022年から2023年のEPS成長率は1.5%強程度。
金利低下するとは言えまだ4%以上の高金利下、消費者の購買力にも期待出来そうに
ない中、近日中にゼロ金利時代の高値を超えていけるという楽観シナリオはかなり無理
がありそうに思えますが。