経済評論家の山崎元氏ご逝去の報に接し、謹んで哀悼の意を表します。
山崎氏と言えば最近は専ら、「真摯にオルカン推しの人」(≒個人投資家の味方)のよ
うな印象で語られるような風潮に思うところもあり、当ブログでも度々同氏の記事を引
用させて頂きました。
先日作成した記事などはその集大成のようなものですが、数日前に公開されたReHacQ
の動画にも些かその片鱗が見て取れました。
動画内で後藤達也氏も誤解というか、買い被りのような発言をしていますが、忖度無し
なのは、対金融業界者に限った話ではありません。
ドルコストを「気休め」と一蹴する発言を始め、個人投資家が陥りがちなバイアスや
思い違いについて、幾度となく冷徹に斬って捨てています。
個人投資家には甘言を弄して、他方で金融業界を仮想敵に見立て斬って見せても、そん
なものはただの人気取りパフォーマンスに過ぎず投資家教育たりえないし、山崎氏もそ
んなちゃちな了見で病苦を押してまで情報発信していたわけではないでしょう。
個人投資家の利益を考えるのなら、個人投資家相手にこそ忖度すべきではないというのが
道理だと思います。
オルカン推しの真意とは
私が考える山崎氏が新NISAオルカン一本を固持する理由は、「同業者および個人投資家
に対する警めと激励」です。
儲けの薄いNISAであるが故に、より手数料が稼げる商売をしようとする金融機関に対し
て牽制的な態度を取ることは同氏の普段の言説を追っていれば容易に想像が付く話です
が、上掲の記事内にも見られるように、質問者が金融関係者であるという想定の下に
揶揄や叱咤に留まらず身の上を理解した上で、励ましの言葉を掛ける辺りは、義侠心に
篤い山崎氏らしい振舞いです。
一方、個人に対しても、前述のReHacQでも見られるようにかなり手厳しく、その際の
主語は「労働者」ですが
「何の工夫もしてなくて与えられた仕事を取り替え可能な形でやってるだけ」
「人と同じでじっと安定していたいっていうのはかなりまずいこと」
といった指摘はそのままインデックス投資家にも当て嵌まりますし
といった物言いは、「オルカンかS&P500か」といったような低次元な問題で右往左往
している投資家には耳が痛いものでしょう。
資本主義の始まり・終わりとAIに関する試論 | トウシル 楽天証券の投資情報メディア
リスク回避的かつ他者のアイデアに便乗しているだけの一般的なインデックス投資家の
位置は精々サラリーマンや預金・債権者の少し上辺りであり、この図を見る限り、大腕
を振って「リスクを取っている」と言える立場ではないように思われます。
オルカン一本を薦める真意は決して「NISAでオルカン積立していれば将来安泰」だとか
「FIREも夢ではない」といったような薄甘いものではなく、「真剣に投資に取り込む気概
もない貴方達にこれ以上の答えは出せないからさっさと見切りをつけよ」という冷厳な
通告に過ぎないわけです。
しかし、その先にある「(答えの出ている)お金の問題なんかにちまちま囚われず、
(出来ればリスクを取り)さっさと人生を謳歌すべし」という本懐は置き去りにされて
いる感が否めません。
アクティブファンドを散々扱き下ろす一方で、NISAで個別株を薦めたりと、市場平均盲
従の守銭奴型運用に堕しない辺りは、やはりリスクテイカーとしての氏の性分の表れで
しょう。
しかし大半の人の関心は「いかに投資で安心・安全にお金を増やすか」という水準に留
まっているので無理もない話ではありますが、実際その手の記事になると途端に受けが悪い。
リスクの取り様は人それぞれだと思いますが、いずれにしても「リスクを取らない者
から、リスクを取る者が価値を吸い上げるのが経済の仕組み」とその威力に対する
畏怖のような念が人生全般に通底しているのでしょう。