最初、「『複利』も『含み益バリア』も幻」としようと思ったのですが、流石に複利ま
で虚構であるかのように斬り捨てるのは思い留まり、「含み益は幻」という常套句を捩
って掲題としました。
「ドルコスト平均法」と併せて、投資初心者への誘惑材料とされる「複利」ですが、過
去記事でも述べた通り、私はこれらの効力を謳って投資に誘い込もうとする論陣に対し
批判的です。
『複利』は慣習的表現
「複利 嘘」でググってみると、私と似たような疑念を持っている人がそれなりにいる
ようで
こちらの方は「投資に複利効果なんてない」と言い切っています。
記事内では「年率」のお作法の話 として 金融の慣習としては「年利に換算」するのが
一般的 と解説されています。
年利に限らず月利だろうと日利だろうと、期間内のトータルリターンをより短い時間
単位に分解・平準化すれば、複利が利いているように見せ掛けることは可能です。
(見せ掛けるというか、そうなるように幾何平均を算出してるのだから当たり前)
じゃあ、投資における複利の恩恵なんて見せ掛けに過ぎないと言いたいかというと、そ
うではありません。
配当などのインカムゲインを抜きにしても、投資の対象となる企業は、獲得した収益で
より優秀な人材を育成したり設備投資などを行い、複利的に収益を拡大しているでしょ
うから、そこへ投資をしている投資家は間接的に複利の恩恵を受けていると考えること
が出来ます。
より教条的なことを言えば、投資におけるリターンはリスクプレミアムによるもので、それが年利にして
数%あるという期待の下、長期的にリスク資産を買い持ちしていれば、リスクプレミアムを複利的に獲得
していると見做すことが出来るというわけですが、実際のリターンは理論値より大きくブレるもので
トレードミスによる機会損失や不要な税金支払いを避けるために、複利を大義名分に「ほったらかし」や
「ガチホ」を推奨しているというのが実情でしょう。
結論としては、投資に複利効果はあるけど金融業界の慣習的表現である側面が強い
という感じでしょうか。
『含み益バリア』は気休めにもならない
評価損益は、いずれにせよ「幻」ではなく「現実」で、その実態を歪めて解釈するのは
欺瞞に過ぎないことは直言しておきたいと思います。
仮に元本100万円で50%の含み益があったとしても、35%の下落に見舞われれば
1000000 × 1.5 ×(1 - 0.35)= 975000
のように元本割れとなり、思ったほどの防御力は発揮されません。
弱気相場において含み益が気慰みになるかどうかは運次第ですが、そもそも含み益はバ
リアなどではなく、時価評価ではあれど資産に違いありません。
評価益も含めた資産全体の保全を考えるのが「資産運用」であって、元本さえ守れれば
良いというのは「元本運用」とでも称する方が適当でしょう。
とは言え、投資の継続の意欲が失われては元も子もないので、何某かを恃みにすること
自体は否定しませんが、巷で喧伝されているものは蒙昧主義的にリスクを軽視させる
詭弁紛いで粗悪なものも少なくありません。
今年のように相場が好調だと、ここぞとばかりに爆益煽りの手合が湧いてきますが、暴
落にしろ爆益にしろ、決め打ちで相場を語っているようなものに再生数稼ぎ以上の意味
はありません。
しかし、そういった動画が何万再生もされているあたり、日本の金融リテラシー教育の
敗北を感じざるを得ません。
そもそも元本保全志向であること自体がリスク許容度の低さを物語っているわけで、そ
ういう人達に向けて大きくリスクを取ることを教唆するのは、根本的に不適切です。